公開オンライン講座「不確実な時代を乗り切り、次の世代にバトンをわたす」の開催報告(1/2)

ファミリービジネスの3円モデル

2020年9月26日に、武井一喜氏を基調講演講師としてお招きして、「マーケティング実践研究会」公開オンライン講座を開催しました。お陰様で約40名の方にご参加いただき、無事、終了いたしました。

武井一喜氏は、ファミリービジネス(同族経営)を専門に扱うコンサルタントであり、一般社団法人日本ファミリービジネスアドバイザー協会理事を務められています。自らのファミリービジネス経営者としての体験を踏まえ、数多くのファミリービジネスの事業承継、後継者育成をサポートしておられます。

今回は、武井一喜氏の基調講演に加えて、研究会会員4名より、中小企業の営業力強化に必要な『3つの見える化』、『Afterコロナ時代の営業変革』と『後継者育成』の具体策、『不確実な時代を乗り切るための留意点』についての講演を行いました。

 基調講演「事例で語る~伝統を次の世代につなぐには?」

中小企業では、同族経営が珍しくありませんが、一般に「同族経営」はあまり良いイメージがありません。しかし、世界的には、同族経営においても、長期的な視野の経営戦略を採用して、一般企業を上回る好業績をあげている例が多々あります。しかし一方では、三代目まで会社が続けられる確率が低い(全体の約15%)のも事実です。それでは、ファミリービジネス(同族経営)の繁栄と永続のための成功法則は何なのでしょうか?

1. ファミリービジネスの三円(3サークル)モデル

ファミリービジネスの構造を理解するための概念として、「三円(3サークル)モデル」があります。これは、株主か否か(オーナーシップ)、オーナー家のメンバーか否か(ファミリー)、その会社に属しているか否か(ビジネス)、関係者がどの立ち位置にあるかを分類するものです。

三円モデルが意味するのは、それぞれの立ち位置でニーズや利害が異なるということです。その中で、最も複雑な立ち位置は、三つの円が重なるところです。オーナー社長はここに位置するわけですが、「ビジネス」、「オーナーシップ」、「ファミリー」の三つの異なるニーズを調整する立場です。例えば、配当に関して、「オーナーシップ」に位置する親族は、多くの配当を得たいと考えますが、「ビジネス」に位置する非親族の社員や役員は、配当をできるだけ抑え、将来のための投資や昇給の原資にして欲しいと願います。

オーナー経営者はビジネスのリーダーであり、家長でもあり、たいていは株主でもあるため3つの円の中心に位置します。そこで、自らがその中に身を置きながら、関係者間の調整を行う複雑な立場にあります。このことがファミリービジネス特有の問題を引き起こす原因になることが多々あります。

2. ビジネスとファミリーの境界線のマネジメントが重要

ビジネスの場は成果や効率を追及する場であり、ファミリーの場は愛情と感情が支配する場です。この相容れないニーズや価値観が混在するのがファミリービジネスの特徴です。感情が支配する場も受け入れないことには、ファミリービジネスは上手く行きません。

ビジネスとファミリーの重なりは、強みにも弱みにもなる可能性があります。ファミリーとしての使命や結束は、事業承継を進める上での求心力になり得ます。逆に、オーナー社長が、後継者となる息子やその兄弟を手足のごとく使ってしまう事例もあり、そうなると後継者の自立を妨げて、事業承継が難しくなるリスクがあります。そこで、後継者や親族の社員に接する際に「ファミリーとビジネスの境界線をはっきりさせる」ことが大切です。簡単に言えば「一度に、ファミリーとビジネスの二つの帽子を被らない」ことです。

3. ファミリービジネスにおける伝統継承のためには

ある時、代々、同族経営を行ってきた企業の経営者から「会社の規模拡大とともに、就業する親族の数も増えて、このまま同族経営の求心力が保てるか心配」という相談を受けました。その事例を基に、ファミリービジネスにおける伝統継承のポイントを考えてみます。

この企業では、これまで経営の基となる家訓、家憲について、日常会話の中で、言い伝えとして伝承してきました。しかし、経営に関わる親族の数が増えるに従って、経営者と個々の親族との間のコミュニケーションの機会を十分に確保することが難しくなり、経営の求心力を保つのが難しくなってきたということです。

そこで、助言した内容が、「家訓・ファミリー憲章を明文化した上で、親族間で話合う場、決める場を儀式として設定すること」でした。具体的には、一般の会社の株主総会にあたる「ファミリー総会」、取締役会にあたる「ファミリー評議会」、次世代の人材育成のための「ファミリーアカデミー」などを設けてもらいました。これにより、後継者や個々の親族の自立を促すとともに、一つの価値観を共有する“Weの場”作りに成功しました。

なお、このような取り組みを進める上では、オーナーファミリーが心から信頼を寄せるアドバイザーのサポートが必要になります。支援するアドバイザーは、ファミリーの一人ひとりがどのように関係しているか理解した上で、当事者同士では解決が難しいトラブルを仲介してあげることが大切です。

聴講者からの質問、講師からの回答

Q1: ファミリーとビジネスの境界線をはっきりするための具体的な取組み方法は?

A1: 其々のカードを作って、話す時に立場を提示させる、呼び方を区別させる(例:伯父さんと専務とか)などの方法がある。

Q2:ジェノグラムを冷静に受け止めてもらうには?

A2:開示する際に気持ちの準備が出来ているか見極める、1人1人に関係線を引かせて、集約する、個人攻撃を排する。

Q3:支援先のファミリーの強みを見つける方法は?

A3:一見悪いように見えるファミリーの風土・文化が、実は強みだったりする。コンサルタントの先入観や偏見を捨てて、謙虚に見つめること。

Q4:「ファミリー総会」などを設けることで、ファミリー以外の社員との壁が出来てしまわないか?

A4:「ファミリー総会」の存在をノンファミリーにも丁寧に説明し、ファミリーの意思決定事項を公表することで弊害を防げる。

聴講者による気づき

同族経営というと、プラスよりも、マイナスのイメージが強かったのですが、今回の講演によって、同族経営の構造を理解した上で、ファミリーとビジネスとの境界線をはっきりさせることで、プラス面を引き出せることが分かり、新鮮でした。

また、海外では、ファミリービジネスを専門に扱うコンサルタントがいることも知り、その活動内容を詳しく知りたいと感じました。本日の講演内容は、我々中小企業診断士が、事業承継や後継者育成を支援していく上で、大変、参考になりました。今後の活動において、同族経営であるクライアントの強みを、最大限に引き出していきたいですね。

小川直樹
神奈川県中小企業診断協会/マーケティング実践研究会