2024-11-23 定例会報告

11月23日の定例会では、明治大学の加藤拓巳専任講師をお迎えし、「商品・サービスの価値づくりとブランドマネジメント」についてご講演いただきました。加藤講師は、商品やサービスを開発する際の「コンセプトづくり」の重要性について、具体的な事例を交えながら分かりやすく解説してくださいました。
さらに、デザイン思考講座の第3回目として、参加者はチームごとに分かれ、それぞれの支援先が抱えるテーマに対して「誰に(ニーズ)」「何を(提供価値)」「どのように(サービス)」という観点からコンセプトづくりに取り組みました。各チームの発表には加藤講師にもご参加いただき、貴重なアドバイスをいただくことができました。

1.実施概要

開催日時

2024年 10月26日(土) 14:00-17:00

実施方法

リアルのみ (神奈川県立かながわ労働プラザ)

2. マーケティングにおける「コンセプトファースト」(加藤講師)

加藤拓巳専任講師による講演「コンセプトファースト」では、商品やサービスを開発する際、顧客が抱える問題を解決する「コンセプト」を軸に進めるべきであるという考え方について解説されました。以下にその主な内容をまとめます。

(1) 顧客の問題解決を重視するアプローチ

商品やサービスは、顧客が抱える問題を解決するために存在します。そのため、以下の3つの視点が重要です。

  • Who:誰が問題を抱えているのか
  • What:どのような問題を抱えているのか
  • How:どのように解決するのか

特に、顧客の根本的なニーズを満たす「コンセプト」の構築が最優先であると述べられました。

(2) コンセプトの重要性とマズローの欲求段階説

コンセプトを作成する際は、マズローの欲求段階説を参考に、顧客が最も関心を寄せる基本的な欲求にフォーカスするべきです。高次の欲求(自己実現や自己超越)は除外し、以下の3つに集中することで、効果的なコンセプトが生まれやすいとされています。

  • 生理的欲求(基本的な身体のニーズ)
  • 安全欲求(安心や安定を求める)
  • 社会的欲求(他者とのつながりや所属感)

(3) 成功事例:明確なコンセプトの価値

以下の事例では、明確なコンセプトが顧客に刺さる価値を生み出し、ブランドの成功に貢献していることが示されました。

  • スターバックス:落ち着ける空間を提供することが顧客の社会的欲求に応えた例。
  • HONDA N-BOX:恥ずかしくないデザインの軽自動車として、安全欲求と社会的欲求を満たした。
  • オイコス:深夜に食べても太らない間食として、生理的欲求を満たした例

(4) ブランド・マネジメントとネーミングの役割

一貫したメッセージを消費者に届けることがブランド・マネジメントの基本です。特に、顧客にとって価値を感じられるメッセージであるかが重要です。ネーミングについても、コンセプトを基に設計されるべきであり、以下の成功例が挙げられました。

  • 「エアーK」(テニスの錦織圭選手の技を象徴)
  • 「グランピング」(豪華さとアウトドアの融合)

また、広告やプロモーションもコンセプト起点で展開すべきであるとし、代表例として「そうだ京都、行こう」が挙げられました。このフレーズは旅行の魅力を簡潔に表現し、成功したプロモーション事例とされています。

(5) 仮説と検証を繰り返すプロセス

講演では、仮説の設定とその検証を繰り返す重要性についても触れられました。具体的には、ランダム化比較試験(仮説に基づくABテスト)などの手法を用いてコンセプトの精度を高めると良いとされます。これにより、顧客にとって最適な解決策が浮かび上がるとしています。

(6) まとめ:コンセプトファーストの実践

加藤講師は講演の締めくくりで、「顧客のニーズに直結するコンセプトを明確にすることが、ブランドの成功に不可欠である」と強調しました。成功するためには、誰が何に困っているかを深く理解し、仮説と検証を繰り返すことで顧客に刺さる価値を提供することが必要です。今回の講演内容は、商品開発やマーケティングに携わる人々にとって、実践的な指針となるものでした。

2. 各チームの活動

ブランドチーム(株式会社和える)

 株式会社和える様と共に、「日本の伝統を次世代につなぐ」教育事業の売上拡大を目指して活動しています。

 今回のワークでは、幾つかの想定顧客から『部門間の断絶が原因で業務に支障を来している部門長』を対象に、研修プログラムの方向性を検討しました。その結果、部門間の協調を促進し、一体感のある企業風土を醸成するため、「感じる力」「観察する力」「言語化する力」を培う、伝統工芸をベースとした体験型研修が有効ではないかという仮説に至りました。

 加藤講師からは、対象顧客の抱える課題が深刻かつ重要である一方で、その課題と研修プログラム(伝統工芸ワークショップ)の持つイメージとのギャップをどう埋めるかが課題であるとの指摘をいただきました。具体的には、説得力を高めるために、過去に研修を受けた企業の知名度や効果を示す実績などの裏付けが必要であるという意見を頂戴しました。

 今後は、この方向性の実現可能性をさらに検証するとともに、和える様の強みを活かせる対象顧客をより広く検討し、研修プログラムの提案内容をブラッシュアップしていく予定です。

情報発信チーム(社会課題解決型新事業『1piece for 2PEACE』)

物流企画会社S社の新規事業として、障がい者就労支援施設で製造されたクッキーを企業内で販売し、売上の一部を生活困窮者に寄付するモデル構築を支援している。この取り組みは、企業のCSR活動を通じて従業員が日常的に社会貢献活動に参加できる機会を提供することを目的としている。  

本サービスのコンセプトは次のとおりである。まず、企業側のCSR担当者には、従業員参加型の社会貢献を実現するパッケージを提供し、企業のブランド価値向上を図る。一方、クッキー購入者には、美味しい商品を楽しみながら気軽に社会貢献活動に参加できる満足感を提供する。また、購入の結果が障がい者や生活困窮者支援につながる仕組みが特徴である。  

加藤講師は、企業の活動が「グリーンウォッシュ」と見なされないよう注意し、CSR活動が企業の課題解決に直結する動機づけが重要であると指摘した。今後、企業が抱える課題の解消を視野に入れ、より実効性のあるビジネスモデルの構築が期待される。 

売上拡大チーム(未来の社会を見据えた新たなモビリティ事業企画)

 本業が看板製作で、太陽光発電による常夜灯を作成している関係先企業S社が、新たに売り出している小型EV車の用途、販売先等を拡大していくべく、プロジェクトを行っています。

 ①主に高齢者に普通乗用車に代わる低コストで安心な移動手段を供給する、②災害時に停電が起こった場合に比較的手軽に電源を供給する、ために蓄電機能に優れ、ソーラーパネルでの充電も可能。USBのみならず、100VのAC電源として給電可能な小型EV車(NINA)を、供給するものです。

 小型EV車には競合が存在するものの、NINAの強みはソーラーパネルで充電できること、及び100VのAC電源として給電が可能なことです。

 加藤先生のコメントは以下のとおりでした。

1 災害時の給電について

 日本中が抱えている課題で、特に真夏と真冬の停電は怖い。かといって、家庭に大きな蓄電池を置くことはできない。そのような中、これさえあれば移動にも使えるし、給電もできることは価値が高い。

 この世で最もコスパの高いエネルギーは、やはり電気であると考えている。このコスパの高い電気を供給する意義は大きい。

2 高齢者の移動について

 競合分析でスペックが前面に出てきてわかりにくくなっている。高齢者に何が問題かといえ ば、免許返納の問題ではなかろうか。子供から人様を傷つけてはいけないから運転やめろと言われる。一方、高齢者としては移動の足が無くなることが問題である。スピードが遅いがゆえに、危害の心配がないことが、高い価値につながるのではないだろうか。

スポーツマーケチーム(ProPadel Japan株式会社様とパデルを盛り上げる)

ProPadel Japan株式会社様と共に、世界規模で急成長するスポーツ「パデル」を国内でも盛り上げるため、認知度・利用人口増加、神奈川県のパデルコート増設をミッションに活動しています。

今回のディスカッションでは、老若男女がプレイできるパデルの特徴を活かし、「孫とできる世界のパデルをあなたの街で家族とともに!」というコンセプトを設定しました。ターゲットは新たな企画を欲していたり、シニア層の深掘りや若年層の顧客開拓を目指すスポーツジムの企画担当者とし、ターゲットへの提供価値とそれをどのように提供するか検討しました。

加藤先生からのコメント

  • スポーツ普及にマーケティングを取り入れる手法はこれまで日本では少なかったが、近年はDeNA等でも取り入れられており面白い試みである。
  • 呼び込む顧客層をシニアなのか20~40歳代とするのか絞ったほうがよい。シニア層はボリュームがある一方で、シニア向けスポーツと認知されてしまうと若い世代への普及が疎外される懸念がある(ゲートボールに近いポジション)。20~40歳代のスポーツとして認知されることに成功すると、他の世代にも広がりやすい。どちらのターゲット設定も可能であるため、選択は経営判断とも言える。

4.最後に

当研究会では、新入会員に対して積極的に発表や活動の機会を得てもらおうというスタンスで運営されています。また、研究会内各チームの活動についてもそれぞれのテーマに真剣に取り組んでおり、中小企業にとって必要な支援策を生み出そうという気概に溢れた仲間が集まっています。ご興味を持たれた方は、ぜひ一度体験見学会にご参加ください。

(以上)